本日の料理屋のまかないは「鯛のあら焚き」です。
「鯛のあら焚き」は料理屋のまかないの定番中の定番です。
ワタクシが坊主(見習い)だった30年ほど前だったら
「鯛のあら焚き」は会席料理の強肴くらいででてきたり、
単品なら1500円くらいで提供されておりましたが、
今ではあまり献立に載らなくなりましたね。
昔は料理屋のお客様は男性が中心でしたが、
今は女性のお客様の方が多いように思います。
「鯛のあら焚き」は食べにくいんですよ。
鯛あら、つまり骨に付いた身をしゃぶったり、吸ったりして
食べなければいけなく、そのしゃぶった骨を口から出したり、
食べている姿があまりお上品ではないのです。
そのあたりが女性のお客様に敬遠される理由でしょうね。
しかし、「鯛のあら焚き」は食通が最も好む鯛料理といっても
過言ではないと思います。
何といっても鯛の一番美味しい部位が頭に集中しているからです。
適度に弾力のある頬肉、絶妙な脂がのったカマ、
唇や目のまわりのゼラチン質は鯛好きにはたまりません。
昔から「鯛を食らうに作法無し」
という言葉があるそうで、鯛のあらを美味しく食べるには
あらをしゃぶったり、吸ったりしなければ食べられないので
少々の無作法は構わないという事です。
そして、「鯛のあら焚き」は作る側の料理人にとっても
敬遠されがちな料理の一つです。
なぜって、「鯛のあら焚き」の仕上がりをみれば
その料理人の技量が一発でわかってしまうからです。
アナタの調理場のまかないはどうですか?
自身のない料理人は鯛のあらを焚かずに
大概は酒蒸しにしたり、唐揚げにしたりしますよ。
「鯛のあら焚き」の難しさは短時間の加熱で美味い不味いが決るからです。
微調整するタイミングが難しいんですよ。
モタモタしていたらあっという間にあたり(味)が決まってしまう。
ワタクシが煮方をさせてもらっていた頃は
師匠に「あら焚きは15分でしあげろ!」
とよく言われておりました。
野菜などの焚き合わせの含ませ煮なら焚き時間が20分~30分はあるし、
火を止めてから冷めるあいだにジックリとあたりが浸み込んでくれます。
甘露煮なども一日二日かけて仕上げるのでその間に調整できるし、
ストライクゾーンが比較的広いんです。
この記事を書いていてフッと思いましたが、そう考えると
中華料理の炒め物って凄い技術が要りますよね。
あの短時間ですべてが決まるんですから。
話を鯛のあら焚きにもどすと、
焚く前の鯛の状態の見極めもあたりをうつのに大切な要素です。
今さっき〆たばかりで、身がイカっているのか、
一晩たって身がしまっているのか天然物か養殖かなどであたりののりが
全く違ってきます。
何グラムの鯛あらに対して何㏄の調味料とかいうレベルの話ではないんです。
もちろん目安になる割は必要ですが。
前置きが長くなってきたのでそろそろ「鯛のあら焚き」の作り方です。
鯛の頭を割る
霜降りをしてウロコをとる
鍋にきめる
春は産卵期なので卵が入っていたので一緒に焚きます。
京人参のへたをあしらいに使いました。
酒をひたひたに
焚き上げる
鯛中鯛
これは鯛のカマについている骨で
「鯛の中の鯛」
と呼ばれています。
ヒレのすぐ下に付いている骨です。
探してみてください。
「鯛中鯛」は江戸時代から幸運を呼ぶ縁起物とされていたそうです。
漫画の「美味しんぼ」でも紹介されていましたよ。
ワタクシもボウズの頃先輩に
「これを酒に浸して乾燥させてを繰り返してから財布に入れておくと
金持ちになるらしいぞ」
と言われたので実践したことがありますが、
今現在金持ちになっていないので先輩の話は嘘です。
そもそも、「鯛中鯛」を財布にいれておくと
真ん中の切れ目みなたい部分が折れるんですよ。
でも、幸福を呼ぶ縁起物というのは本当かもしれません。
お陰様でこうして毎日仕事ができて幸せに生活させてもらっているので。
「鯛中鯛」
鯛のカマを食べるともれなく付いてくるおまけです。
昔ケロッグコーンフレークを食べると袋の底の方に
人形のおもちゃが入っていたみたいな感じです。
ちょっと例えが違いますか。
by料理長