いつもありがとうございます。
この記事は「京料理いそべ」youtubeチャンネルの
「冷凍青梅検証動画」https://www.youtube.com/watch?v=ZmPhveHeeSgをより詳しく解説しています。是非最後まで読んでいってください。
「青梅の蜜煮レシピ」動画https://www.youtube.com/watch?v=lgsSPWbg-xY
をご覧になった視聴者の方からこんな質問をいただきました。
私の職場では青梅を針打ちしたら青がとばない様に冷凍していますが、
冷凍しない方がイイのでしょうか?
どうしても皮が割れやすくなっている感じがするのですが、
塩水に浸けて冷蔵保存の方が皮が割れにくくなりますか?
冷凍するというやり方を私自身知らなかったので
大変興味のある検証でした。
Amazonで冷凍梅を購入して検証してみました。
検証方法
Amazonで「和歌山県産冷凍梅500g」https://amzn.to/47SgsJUを購入しました。
実際にAmazonから到着した梅は黄色く熟しかけた梅でしたが、
質問者さんの質問は「冷凍した梅は割れやすいのか?」
という事なので色は気にせずに銅鍋で湯がいてみました。
検証予想
私の経験上、皮が割れるのは湯がく温度が高いからだと思いますが、
梅を冷凍することで細胞が壊れて皮が割れやすくなっていた可能性もあります。
しかし、針打ちをするというのは皮の表面の細胞を傷つけて壊す行為なので
冷凍したから割れやすくなるというのはちょっと考えにくいと思います。
検証温度と時間の設定
50℃前後から脂質二重膜の崩壊が始まり80℃から細胞壁および細胞間隙にあるペクチンが離脱を起こし細胞間の緩み、分離が起こりやすくなる
日本植物生理学会「植物細胞の崩壊する温度」より
上記の様にあるので湯がく温度は60℃から始めます。
60℃~65℃を1時間キープします。
丸新銅器 山菜鍋 純銅 36cm 吊付 内側錫引き無
次に65℃~70℃を1時間キープします。
次に70℃~75℃を1時間キープします。
次に75℃~80℃を1時間キープします。
次に80℃~85℃を1時間キープします。
特に割れている様子はありません。
90℃になりました。
90℃になっても皮は割れなかったので湯がくのを終了します。
丸新銅器 山菜鍋 純銅 36cm 吊付 内側錫引き無
検証結果
今回の検証では90℃になっても皮は割れませんでした。
なので質問者さんの言うところの
「湯がいた時に割れやすい気がする」
というのは冷凍したから割れたのでなく、
次の二つが割れた原因と考えられます。
※①湯がく時の温度が適温より高くなった時間帯があった。
※②梅自体が冷凍する前から元々割れやすい個体だった。
上記二つの原因の対処法は
※①湯がく時の温度が適温より高くなった時間帯があった。
対処法1:湯温が急激に上がらない様に湯の量をタップリと用意する。
湯の量が多いと温度変化が少ないというのは感覚的に分かって頂けると思います。
対処法2:銅鍋の下に厚めの鉄板などをを敷いて熱の伝導率を下げる。
このやり方は青梅の湯がきに限らず黒豆をもどす時や昆布山椒煮を焚く時など
急激な温度変化を避けたい時に使う方法です。
※②梅自体が冷凍する前から元々割れやすい個体だった。
この対処法は、梅によって産地、収穫時期、サイズが違うので、それぞれの湯がく適温も違います。 なので、それぞれの個体の特徴をイチイチ見極める必要があります。
仮に一鍋で梅を200個湯がいたとしたら200通りの個性があります。 青梅の青は75℃前後でもどってきてくれますが、
75℃で柔らかくなって皮が割れだすものもいれば、
80℃でも皮が硬いままというものもいます。
中には90℃になってもイジけたままで柔らかくならないものもいます。
だからと言って梅を一つ一つ湯がくわけにはいかないのでそれらの平均値をとって 私は青梅を湯がく温度は80℃~85℃としています。
柔らかくなり過ぎて割れるもの、イジけて硬いままのものが一定数でることを前提に80℃~85℃で湯がきます。
私が煮方(調理場の二番手)をしている時、師匠に
「何度で何分湯がいたらイイですか?」
みたいな質問の仕方をすると。
そんな事は素材に聴け!
と怒られました。
「素材に聴く」というと海原雄山のセリフみたいでカッコイイのですが、
これは師匠が格好つけているわけではなく、
それが真理なので他に言いようがなんですね。
北大路魯山人の名言の中に
「料理とは理(ことわり)を料(はかる)こと」
北大路魯山人名言集より
物事の道理、真理をおしはかるという意味です。
道理真理とは、物事のそうであるべきこと、正しい道筋のこと、
そして、おしはかるとは見極め判断するという事です。
「青梅を焚く」という行為の真理を突き詰めた時に
「何度で何分ですか?」などという愚問は生れてこないはずです。
「素材に聴く」という抽象的な表現だと分かりにくいかもしれませんが、
常に素材の状態を観察するという事です。
時には素材に触ってみたり、食べてみたりして
素材がどんな状態かを確かめるようにしましょう。
巷にあるレシピというのは先人達の経験則からなる目安みたいなものです。
青梅を湯がくなら85℃くらいがイイよ、とか
天出汁は10対1位がイイよとか、あくまでも目安です。
100人の料理人がいたら100通りの経験則があり、
その平均値みたいなものがレシピとして語り継がれてきたんだと思います。
ただ、平均値は実在しない可能性があると言われるように、
そのレシピがあなたが作ろうとしている料理、素材にあてはまるとは限りません。
レシピにそう書いてあるからと言ってその数値を過信するのは危険です。
なので既存のレシピに考察と微調整を加える必要があります。
料理に限らずですが、「知っている」のと
「やったことがある」のとでは雲泥の差があります。
文献や動画を視たり、他人から教えてもらって知っているだけで
「出来る」と思い込んではいないでしょうか。
実際にやってみて失敗して成功してはじめて「出来る」と言えます。
なので出来るだけイロイロな事にチャレンジして
小さな失敗成功体験を最速で繰り返しましょう。
そうする事でアナタだけのレシピが出来上がり、
「素材に聴く」という真理が理解できると思います。
理解してから行動するのではなく、
行動することで理解することが出来ます。
とにかく料理は実践あるのみです。
検証まとめ
質問者さんの「冷凍の梅は割れやすくなるのか?」
という質問に対して
検証結果は和歌山県産の冷凍梅を湯がいてみたら
90℃になっても割れなかった。
ということです。
しかし、これは検証に使った梅を生の状態と比較したわけではないので、
もしかしたら生の状態よりは冷凍した方が割れやすくなっていた可能性もあります。
新たな仮説
今回この検証をさせてもらった事で
私の中に新な仮説が生れました。
それは
「青梅は冷凍すれば針打ちをする必要がないのではないか?」
という事です。
青梅を冷凍、解凍することで細胞膜が壊れるので
針打ちをするのと同じ効果があるのではないか?
という事です。
これは来年の青梅が出回る時期に検証してみます。
もし私の仮説が証明できたら
「青梅蜜煮レシピ 針打ちをしないやり方解説」
というタイトルで動画をアップするかもしれません。
どうぞご期待下さい。
この記事が皆さんの参考になれば嬉しいです。 理を料る人と書いて料理人です。 理を料るという能力は現時点ではAIよりも人の方が 長けていると思います。 新しいテクノロジーを取り入れつつも 人としてやらなければいけないこと、 やるべきことを全うしていきましょう。 ご意見ご感想などはコメント欄に書き込んでください。 それでは最後までこの記事を読んでいただきありがとうございました。 これからも料理道に精進いたします。