いつもありがとうございます。
今回は「鱧」のさばき方、骨切り、骨抜き、鱧のたれ焼き、鱧料理について解説いたします。
鱧は京料理には無くてはならない食材です。
鱧の骨切りの技術をしっかりと習得してください。
※解説の一番下に「You tube鱧のさばき方動画」を貼り付けてあるので参考にして下さい。
鱧とは
参考文献:「別冊専門料理 素材と日本料理」 柴田書店
旬
旬は夏です。
「ハモは梅雨の水を飲んで美味くなる」
というのは、どの文献を読んでも書いてある事ですね。
梅雨の明けるころに脂がのって美味しくなります。
その時期が京都の祇園祭、大阪の天神祭と重なるため、
祭の時に客にハモをご馳走する習慣が生まれたそうです。
しかし、ハモに一番脂がのり、味に深みがでるのは秋になってからともいわれ、
土瓶蒸しなど松茸と一緒に賞味されることが多いです。
ワタクシも秋のハモの方が美味しいと思います。
「ハモの旬は年に二回ある」とも言われています。
目利き
5~6歳になると、成熟期に入ります。
ちょうど体長60㎝~70㎝、体重500g~600gくらいの時で
そのころが一番美味しい時期といわれています。
ワタクシは700gくらいが好みですが。
外見は擦り傷や打ち身などがなく、体全体がふっくらとしていて
赤みかかった銅色(メス)で、粘液が多い皮膚のものが良いです。
ヌメリがなく、全体が白っぽいものは避けた方がいいでしょう。
種類
ウナギ目ハモ科に分類されていますが、分類学的には、このハモ科そのものが
曖昧なもので、他のどの分類にも入らない種をとりあえずひとまとめにした感が
強いようです。
ウナギ目の中でも、ややアナゴ科に近い種のようです。
ハモの仲間は、世界で8種が確認さていて日本にはハモの他に
スズハモとハシナガアナゴの計3種がいるそうです。
スズハモは、ハモとよく似ていて、ほぼ同一の海域に分布しています。
スズハモの方が見た目がスラっとしていて成長が早く大型です。
体色は青みがかった鉄色です。
生態
ハモは暖海性の魚で、日本では太平洋側の宮城県以南、日本海側では新潟よりも
南の各地の沿岸に棲息していますが、水揚げは全国的に少ないです。
瀬戸内海が最大の漁場で、国内ではほかに和歌山から南の太平洋沿岸で漁獲が多いです。
日本以外では、黄海、東シナ海、南シナ海、ジャワ海、インド洋、紅海、南アフリカ沿岸
に分布しますが、ヨーロッパとアメリカにはいないそうです。
暖流域の岩礁の間や砂泥底に棲み、夜行性で海老、蟹、魚類、烏賊、蛸を好んで
餌にするそうですが、成長するにしたがって海老、蟹が減り、烏賊、蛸が増えるそうです。
甲殻類が好きみたいですね。
ハモは活力のある魚で、長い時間水から上げておいても生きているため、
海から離れた京都では、貴重な海の魚であったようです。
そしてハモの旬がちょうど祇園祭の頃と重なり、京都特有の蒸し暑い時期のご馳走として
洗練された料理が生まれたそうです。
産卵期は春から夏にかけてで、瀬戸内海や各地の沿岸に棲むものは外海域で
産卵するといわれているそうです。
形態
ウナギやアナゴに似た細長い円筒形で、胸ひれはあるが、腹ひれがなく、黒い縁取り
のある背びれ、尾ひれ、尻ひれが一つにつながっています。
ウロコを持たず、皮膚の粘膜腺が発達しているため、手がヌルヌルするほど粘液が強いです。
顎が細長く、大きな口には非常に発達した鋭い犬歯を持ち、性格が荒いです。
ワタクシも生け簀からあげてきたハモに
指を噛まれた事がありました。
鱧のさばき方
鱧を水洗いします。
鱧のヌメリを取り除きます。
ヌメリを取るのは包丁を使うのが一般的です。
金タワシでこする方法もありますが、
金タワシの破片が鱧の身に付くことがあるので
充分に注意してください。
肛門から逆さ包丁で腹を開きます。
エラから口まで包丁を入れます。
肛門から口まで開いたら、次に肛門から尾に向かって内臓の入っている部位を開きます。
包丁のアゴを使って内臓を取り出します。
その時に肝臓の横にある胆嚢(にが玉)をつぶさないように気を付けましょう。
ササラを使って血合いを取り除きます。
血合いがササラで取りきれない部位は、手を使って取り除きます。
血合いが取り除けたら、まな板を洗ってタオルでふき、
ハモは乾いた清潔なタオルで水気をふきとります。
ハモを開く時は、頭は右、腹は手前です。
腹側からおろします。
皮一枚だけを切るイメージです。
二刀目で中骨の中央まで到達しています。
頭の付け根から、中骨と腹骨を切り離していきます。
中骨は、背中から腹の方に向けて広がるように三角形をしているので
包丁をその形状に沿わすように角度をつけます。
一刀目で中骨と腹骨を切り離し、二刀目で背びれの付け根あたりまで包丁をすすめます。
中骨が三角形になっているのは、腹骨が付いている部分だけなので
腹骨がなくなると、中骨は三角形から平な形状になります。
ちょうど、今包丁があるあたりの中骨は平になっているので包丁の角度もねかせています。
背びれまで包丁をいれたら、頭を左にして腹ひれの少し上に包丁目を入れます。
二刀目で中骨の中央まで到達しています。
三刀目では中骨を乗り越えています。
四刀目では背びれの付け根あたりまで包丁をすすめます。
中骨と腹骨が接続している部分まで来たら、中骨が三角形になるので
包丁の角度を上げて腹骨を切り離していきます。
中骨と腹骨が切り離せたら、背びれの付け根あたりまで包丁をすすめます。
中骨と身を切り離したら、中骨を尾の部分で切断します。
中骨と身が分かれた状態です。
身を上にします。
逆さ包丁で腹骨を浮かせます。
腹骨が浮いたら、腹骨をかきます。
反対側の腹骨も逆さ包丁で浮かせます。
背びれの付け根にある小骨も包丁目をいれて浮かせます。
ハモの向きをかえて、浮かせた腹骨をかきます。
背びれの付け根にある小骨も取り除きます。
左手を添えて、身の上をすべらすように包丁を進めると必要以上に刃が入りません。
小骨も取り除けたら、ひれからカマを落とします。
ハモの身を内側に折りたたんで、背びれに包丁目を入れます。
再び、身を開き切れ目を入れた背びれを包丁のアゴで押さえて
身を持ち上げるようにして背びれを取り除きます。
頭の付け根付近の背びれが残りやすいので、しっかり取り除きましょう。
完成です。
あとは骨切りです。
同じ内容の「鱧のさばき方動画」もあるのでご覧ください。
「京料理いそべ 鱧のさばき方」動画
https://www.youtube.com/watch?v=Z-QfuY7WZJo
鱧の骨切りについて解説
解説の最後に、この記事と同じ内容の動画を貼り付けてあります。
鱧の骨切りとは
鱧の骨切りとは、皮を切り離さずに身に細かい包丁目を入れる事です。
なぜ、そのような事をするのかというと鱧の身には小骨がたくさんあるので
食べた時にそれが口にあたらないようにするためです。
「小骨があるなら抜いたらいいのでは?」
と思いますが、鱧の小骨は生え方が特殊で抜きにくいうえに左右の身を合わせて
約600本もあると云われているので、とても抜ききれませんし抜こうとも思わない
ですよね。
(でも、それを抜く料理人がいるんです。それについては後ほど)
昔の京都では新鮮な海産物がなかなか手に入らなかったので、活けの状態で
運び込まれる鱧は貴重な存在でした。
先人達の知恵と工夫により「鱧の骨切り」という技術が誕生し発達しました。
骨切り包丁について
鱧の骨切りについて解説するのに、骨切り包丁を解説しないわけにはいきません。
骨切り包丁は名前の通り、鱧の骨を切る為の包丁です。
上の画像が骨切り包丁です。
野菜用の薄刃のような形状をしています。
細かい打ち物をするときは、このような形状の包丁が向いています。
骨切り包丁は、裏すき(包丁の裏面)の面積が広いので左指があたる面積が広く、
包丁がブレにくいです。
大根剣打ちと鱧の骨切りは、基本的にはやる事は同じです。
大根剣が上手に打てるようになれば鱧の骨切りの上達も早いです。
大根の桂むきと剣打ちは包丁技術の基本です。
「大根の桂むきが必ず上達する方法」https://isobemaruyama.com/553/
骨切り包丁は刃渡りが長いので一刀で骨切りをすることができます。
刺身用の柳刃が長いのも、刺身を一刀で引く為です。
包丁はノコギリのように、ゴリゴリ動かさない方が良いです。
一刀で切る事により切り口が綺麗に仕上がり、食感にも影響してきます。
骨切り包丁のサイズは、24㎝、27㎝、30㎝、33㎝などがあります。
それ以上のものもあるようですが、27㎝か30㎝が扱いやすいと思います。
ちなみにワタクシが使っているのは27㎝です。
700g~800gの鱧を骨切りするのに、27㎝で充分だと思います。
骨切り包丁以外の包丁では骨切りできないのか?
できなくはありませんが、あまりお勧めしません。
柳刃で骨切りをする料理人ってけっこう多いと思います。
ワタクシも500gくらいの鱧だったら柳刃でやる場合もあります。
小さい鱧に大きな骨切り包丁だと、皮まで切れすぎて打ちにくいんですよ。
蚊を落とすのにバズーカ砲ぶっ放すみたいなもんです。
逆に大きな鱧に小さい包丁では歯が立ちません。
適材適所と言いますか、素材にあった調理器具を選ぶのも料理人の腕かなと。
そして、柳刃は裏すきが狭いので手ブレがしやすく、
自分の指をスパッといく場合があるので注意です。
柳刃はもともと「押し切り」するための包丁ではないんです。
「引き切り」するために設計された包丁なんですね。
出刃包丁ではどうか?
これもやろうと思えばできます。
できますが、あえて出刃を使おうとは思いません。
卓球をスリッパでもできますが、あえてやらないですよね、みたいな。
薄刃は刃こぼれするので絶対やめましょう。
以上の理由から鱧の骨切りには「骨切り包丁」を使う事をお勧めします。
「骨切り包丁」の価格は3万~5万くらいだと思います。
もっと高価なものもありますが、あまり高価な道具を買う必要はありません。
身の丈にあった道具を選びましょう。
3万~5万でも充分高価ですが、「骨切り包丁」を一本買えば10年位は
使えるのではないでしょうか(もちろん使う頻度にもよりますが)
ワタクシの骨切り包丁も10年くらい使っています。
仮に骨切り包丁の価格が4万円としても10年使えば年間4000円ですから、
高い買い物ではないと思います。
職人の技術は道具がなければ身に付きません。
道具はいずれ消耗してなくなりますが、身に付いた技術は一生ものです。
自己投資と思って購入してみてはいかがでしょうか。
鱧の骨切りのやり方
骨切り包丁の持ち方
骨切り包丁の持ち方は、親指を峯にのせて、ヒトサシ指を包丁の腹にのせます。
鱧の骨切りは包丁で骨切りをするというよりも
ヒトサシ指で骨切りをするイメージです。
立ち方と下半身の重心について
調理台に寄りかからないように隙間を開けて立ちます。
右足半歩引いて、左足に重心をのせる。
左足に重心をのせることで右腕が動かしやすくなります。
例えば、右ピッチャーが投球する時もボクサーが右ストレートを打ち込む時も
どちらも左足に重心がのっています。
人が歩く時もそうですが、右手を前に出そうとしている時というのは
必ず左足に重心がのっています。
このことからも分かるように、右手を自由に大きく動かそうと思ったら
左足に重心がのっていなければいけないという事です。
重心が下半身にのらずに手だけで骨切りすると2~3本なら骨切りできますが、
これが20本、30本ともなると安定した骨切りをする事ができません。
左足に重心をのせる。
これをおろそかにしている料理人って結構多いですが、
鱧の骨切りに限らず打ち物をする時というのは左足に重心をのせる事を心がけましょう。
上半身と右腕の使い方
左足に重心をのせたら鱧を真上から見下ろす位置まで上半身を前に倒します。
肘は直角に、腕と包丁が上から見たら真っすぐになるようにします。
骨切り包丁の使い方
骨切り包丁は、まな板に対して左に約25度傾けて使います。
その理由は鱧の小骨の生え方にあります。
鱧の小骨は、鱧の頭を右、皮目を下にした時にまな板から約25度の傾斜をつけて
生えています。
小骨が斜めに生えているのに、包丁をまな板に対して垂直に使っては
小骨の切り口が竹槍の様に斜めになって断面が長くなってしまいます。
そこで包丁を左に25度傾ける事により垂直に包丁が入ります。
少しでも小骨の断面が小さくなるように包丁を傾けて使います。
左手の使い方
包丁の打ち物の技術は左手の技術と言っても過言ではありません。
左手の細かい動きが必要になります。
鱧の身を押さえる時に下に押さえる力と左へずらす力のバランスが大切です。
鱧の身を左へ引っ張るように下に押さえると鱧の皮がわずかにまな板から離れます。
この離れた部分がアソビになります。
このアソビがあるから皮が切れずに皮一枚を残す事ができるのです。
もし仮に皮がまな板にピタッと張り付いた状態だと、
包丁の力がダイレクトに皮に伝わって皮が切れてしまいます。
皮を浮かしてアソビをつくる事により皮に伝たわる包丁の力を分散する事ができます。
氷水とタオルを用意しておく
骨切りをしていると手から伝わる体温と摩擦で鱧が温かくなるので
時折氷水で左手と包丁を濡らします。
濡らしたままだと、まな板と鱧がビタビタに濡れるので
タオルで余計な水気はとります。
包丁と左手が適度に濡れていることで滑りが良くなり骨切りがしやすくなります。
鱧の骨切りのまとめ
- 包丁を正しく握る(親指を峯にのせて、ヒトサシ指を包丁の腹にのせる)
- まな板の寄りかからずに左足に重心をのせる。
- 鱧を見下ろす様にして肘は直角に左手と包丁が真っすぐになるようにする。
- 包丁は左に約25度傾ける。
- 鱧を押さえる左手は気持ち左に引くように押さえる。
- 包丁と左手を時折、氷水で濡らす。
- 以上です。
鱧の骨切り解説動画はコチラ
鱧の骨抜き
京都東山区高台寺畔に「馳走 高月(ちそう こうげつ)」という
鱧料理で有名なお店がありました。
このお店は鱧の骨切りではなく「骨抜き」した料理を食べさせてくれることでも有名でした。
このお店の主人 朝尾朋樹氏の著書「秘傳鱧料理」という本の中に
鱧の骨抜きのやり方が紹介されています。
ワタクシもこの本から「骨抜き」の技術を習得いたしました。
この「骨抜き」の技術は朝尾氏が料理人生をかけて試行錯誤の末に極めた技術です。
鱧のたれ焼き
鱧のたれ焼きは、鱧の棒寿司やチラシ寿司、茶碗蒸しの具などにも応用できるので
是非習得してください。
この記事の一番下に同じ内容の動画を貼り付けてあるので参考にして下さい。
鱧の串打ち
今回は700g~800gの鱧を使用しています。
たれ焼きにするにはこれくらいのサイズが脂のノリもいいし
身が厚いので串も打ちやすいです。
骨切りした鱧を串打ちしやすいように「頭」「真ん中」「尾」に三分割します。
画像の右から頭、真ん中、尾です。
三つの部位とも頭が向こう側、尾が手前になっています。
串打ちは尾から頭に向けて打ちます。
左手に金串を持って、金串で鱧の身を一枚一枚押さえるようにすると
串打ちしやすいです。
串を尾から頭に向けて打つのには理由があります。
それは骨切りするときに包丁の角度を約25度、尾の方に傾けているので
尾の方向に傾いている身を起こすように串打ちすることで打ちやすくなるからです。
串は皮目ギリギリのところに打ちます。
二本目の串は一番身の厚い部分に打つと串打ちが安定します。
三つに分けた部位の全てに串が打てました。
串は鱧なりに扇型になるように打つと、焼く時に扱いやすくなります。
画像はわかりやすい様に少々大げさに扇型になっていますが、
まあ~でも、
実際もこれに近い状態です。
頭の部位は扇型というより逆に台形になっているので
串を奥まで差し込んで180度回転して前後を入れ替えて扇型にします。
鱧の白焼き
鱧の白焼きは、身と皮目では「身」から先に焼きます。
よく昔から「海の魚は身から焼く、川の魚は皮から焼く」
なんて言いますが、これ覚えやすいですよね。
でも、これにこだわり過ぎも要注意です。
身から焼く理由は、皮目から焼くと皮が急激に縮まって丸まってしまうからです。
身からしっかり焼けば、丸まりにくくなりますが、
それでも丸まる心配がある場合は竹串を挟みこむと防ぐ事ができます。
「焼き方の基本は、強火の遠火」と言いますが、
それは炭火の場合で、ガス赤外線グリラーで白焼きの場合は
近火で焼いた方がいいです。
身の方が焼けたら、この時に串を回しておきましょう。
皮目も焼いて完全に火が通ってしまうと串が回しにくくなります。
白焼きは白く仕上げるのではなく、
しっかりと焼き目がつくように焼きましょう。
美しい白焼きです。
鱧のたれ焼き
白焼きがしっかりと出来たらたれ焼きをしましょう。
白焼きした鱧にたっぷりとタレをかけてかけ焼きします。
かけては焼いて、かけては焼いてします。
「身を何回、皮目を何回」とか決める必要はありません。
それぞれの鱧によって、部位によっても焼き加減が変わってくるので
美味しそうな焼目が付くまで焼きましょう。
身が焼けたら、皮目もかけ焼きします。
皮目も美味しそうな焼目が付くまで焼きます。
たれ焼きするときは白焼きの時よりも少し下火で焼きます。
タレがついていると焦げやすいからです。
焼き上がったら串を抜いて完成です。
白焼きの段階で串を回しておかないと、最後の串抜きで苦労しますので要注意です。
鱧のたれ焼きについて解説動画
https://www.youtube.com/watch?v=Bhsd5-Npwo0
鱧料理
鱧のにぎり寿司三種「炙り 洗い おとし」
鱧の洗いについて
鱧を洗いにする場合は骨切りをせずに皮を引きます。
骨抜きで小骨を抜きます。
T字Y字の形をした特殊な小骨です。